
佐木理人(さきあやと)さん
毎日新聞論説委員 兼 「点字毎日」編集次長(専門記者)
プロフィール
1973年 大阪市生まれ 先天性の緑内障
小・中学校は弱視教育をおこなう大阪市の学校に通う 中学生の時に失明
高校は、東京の筑波大学附属盲学校(現・筑波大学附属視覚特別支援学校)へ通い3年間を過ごす
神戸市外国語大学大学院 外国語学研究科 英語学専攻を修了
2005年 毎日新聞 点字毎日 特別勤務員として勤務
2008年 毎日新聞社の正社員となる
2019年 毎日新聞の社説を担当する論説委員を兼務
2025年 毎日新聞論説委員 兼 「点字毎日」編集次長(専門記者)に
当社製品を知ったきっかけを教えてください
筑波大学附属盲学校 高等部 普通科にいた時、現在だと自立活動という名前だと思いますが、養護訓練という授業がありました。
1989年に入学した頃は、まだパソコンが一般化されていない時代でしたが、その中でパソコンを学ぶ授業があったのです。
6点漢字を考案された長谷川貞夫先生に、AOKワープロ1 や6点漢字について教えていただいたことが、高知システム開発の製品を知る最初のきっかけでした。
一方、私のクラスメイトでパソコンに興味を持って使い始めていた全盲の友人がいました。
彼はよく教室にノートパソコンを持ち込み、夢中でキーボードを叩いていました。
彼がAOKワープロやVDM2、一太郎を使っているのを見て、なるほど、このように操作するのかと知り、パソコンの音声読み上げという世界を知るようになったのです。
大学生になった時、親にノートパソコンを買ってもらいVDMを入れて使い始めました。
1999年にWindowsに切り替え、それ以来、PC-Talkerは現在まで愛用させていただいています。
私たちの世代は、MS-DOSから現在のWindowsまで、科学技術の恩恵をまさに体感してきたと言えるでしょう。
補足
- AOKワープロ(正式名称:AOK点字日本語ワープロ)は、有光勲氏、北川紀幸氏、そして当社前社長の大田博志によって開発された日本初の視覚障がい者向けワープロソフトです。
- VDMは、斉藤正夫氏によって開発された、N88-BASICやMS-DOS上で動作するスクリーンリーダー(画面読み上げ)ソフトウエアです。
よく使用するソフトウエアや機能を教えてください
仕事でもプライベートでもよく利用させていただいています。
仕事でよく使うのは「MyMailⅤ」「MyNews Neo」「MyBook Neo」「MyRoute Neo」「MyEdit」などです。
MyMailⅤでは、取材等のメール連絡のやり取りをしています。海外のかたと連絡を取り合うこともあります。
NetReader Neoでは、取材のための情報収集をおこないます。
英語のメールやホームページを確認する時は、PC-Talkerと点字ディスプレイを繋いで、指で読むこともあります。
MyNews Neoでは、自分が関わった毎日新聞の社説やコラム「心の眼」毎日小学生新聞の「6つの点 白いつえ」の記事を確認し、保存しています。
MyBook Neoでも、取材に関連する本の読書をします。行政関係の資料はPDFが多いので、MyBook NeoでPDFを開いて読んでいます。
MyRoute Neoでは、路線探索で取材先までの乗り換えや時刻を事前に確認しています。
MyEditでは、原稿を書いてtxtファイルで出稿しています。
文章を書く際は、IMEの単語登録機能を活用し、スピーディーに書けるように工夫しています。
たとえば「てん」と入力すると「点字毎日の佐木です」と変換するようにしたり、人名や団体名などが正しい漢字ですぐに変換できるようにしたりしています。
また、コラムを書く時にさまざまな表現を使うことがよくあるので、その際は、PC-Talkerの国語辞典の語釈読みコマンド(Ctrl+Alt+J)で漢字の意味を調べたりします。
それで足りない場合は、MyDic Neoの辞書検索で調べることもよくあります。
MyFileでは、ファイルを管理します。お気に入りフォルダを登録して、よく利用するフォルダへすぐに移動して時間を節約しています。
最近は、取材や打合せでZoomを使用する機会が増えてきました。また、Teamsを使って出稿したり会議に出席したりしています。
いづれもPC-Talkerが読み上げるので操作できています。

プライベートでよく使うのは「MyMailⅤ」「MyAccess」「NetReader Neo」などです。
MyMailⅤで、友人と連絡をとりますし、副代表を務めている「視覚障害者の歩行の自由と安全を考えるブルックの会」などのメーリングリストでのやり取りで活用しています。
MyAccessは最近使い始めました。
娘たちが家を出たことを機に、子どもの年賀状を作成することが無くなったので、これまで年賀状の印刷は晴眼者の妻に任せていましたが、2024年の年賀状から自分でするようになりました。
NetReader Neoでは、インターネットバンキングの送金時によく利用しています。
仕事でもプライベートでも、高知システム開発のソフトは、欠かせません。
取り上げる記事はどのように探して決めていますか?
メーリングリストで流れる情報や色々なところが出されてる刊行物などを見て、目を付けることもあります。
また、読者のかたや過去に取材をさせていただいたかたから情報提供をいただけたりもします。
目の見える記者は、最近ではSNSをチェックして参考にすることが結構多いようです。
取材先で新たな出会いができて、思ってもみなかったような情報が拾えたりすることもありますので、行ける時は、できるだけ現地に行くように心がけてます。
集めた情報で書けそうかなと思ったことがあれば、毎週おこなう点字毎日の編集会議に向けて「私はこういった記事を書きたいです。書きます」というエントリーをします。
編集長・編集次長を中心に検討し、紙面を決めていって、各記者取材を進めていくという流れを毎週しています。
点字毎日は、記者や印刷グループ、点訳者・触読する校正者のかたたちを含めて20人あまりで作成しています。
小さい頃から記者になりたかった?
記者になりたいとは、まったく考えていませんでした。
ただ「ものを書く」ことが好きで、小学4年生くらいの時から、自分で昔話を書いていました。
親も関心を持ってくれ、感想を言ってくれました。
中学生の時に、授業中に先生から『みんな、将来 何になりたいんや?』という質問があったんです。
当時、目がほとんど見えなくなっていたから、何になりたいかなんて全然思いつかなくて……。
ものを書くことが好きだったので「ものを書く仕事ができたらいいです」と適当に答えたら『じゃあ作家かな~』と先生に言われたことを覚えています。
大学時代、英語の助動詞の研究をしていたので、英語文法の研究者になりたいという夢を持ち、大学院の修士まで進みました。しかし、能力的な限界を感じて諦めました。
専門学校で点字を教える仕事や、地域の障がい者の生活を支援するピアカウンセラーという仕事をしていましたが、大学院の時に結婚もして「そろそろ将来の道を決めないといけないな」と思っていました。
そんな時に、点字毎日で点字を読む仕事をしないかという話があり、転職しました。
その後、正社員になり、コラムを書いたり、現場取材に出向いたりと……
気がつけば、記者の仕事をするようになっていました。
自分にとっては、すごくありがたいことだなと思っていますし、それを支えてくれている高知システム開発のソフトには、とても感謝しています。

今後、高知システム開発に期待すること
主に3点あります。
まずひとつめに、視覚障がい者向けゲームソフトの開発です。
例えば、すごろく系のゲームやロールプレイング的なもの、野球ゲーム、シューティングゲームなど。点字ディスプレイと組み合わせてプレーできると面白いと思います。
まだ目が見えていた小学4年生の時に、ファミリーコンピューターが出てきて、最後に見てゲームをしたのがスーパーマリオ。
その時のゲームの面白さの記憶が強く残っています。
生活を便利にしてくれるソフトを作っていただいていますが、心が豊かになる楽しみが増えるような娯楽ソフトを開発していただければと願っています。
次に、スマートフォン用アプリの開発です。
最近、視覚障がい者のかたでもスマートフォンを使っているかたが多いですよね。
一般向けのアプリは、レイアウトが複雑で情報量も多いため、目的の情報にたどり着きにくいことがあります。
高知システム開発では、iPhone対応アプリのMyBook Mobileをすでに出してらっしゃいますが、MyNews NeoやMyRoute Neoのスマートフォン用アプリも出していただけるととても嬉しいです。
3つめに、AIを活用した誤字チェック機能の開発です。
私は点字と活字のデータの両方の原稿を作成するのですが、誤字チェックがなかなかスムーズに進みません。
そのため、最終的には、矢印キーで一文字ずつ確認する作業が必要になります。点字毎日1ページ分の450字程度の原稿であればまだしも、2000字にもなると、誤字チェックだけでそれなりの時間と集中力を要します。
AIを活用した誤字チェック機能で、誤字を一覧表示できるようになれば、業務効率の大幅な向上に繋がるのではないかと考えています。
最後に、お願いになるのですが。
ICT(情報通信技術)の進化が目まぐるしい昨今で対応が大変だと思いますが、高知システム開発には、これからも視覚障がい者にとって心強いサポーターであり続けていただきたいというのが何よりの願いです。
サービス部担当者より
2025年4月1日号 点字毎日・点字版、4月3日号 点字毎日・活字版で、弊社の新しいホームページのことを取り上げていただきました。
それに便乗し、図々しくもプロの記者である佐木さんにインタビューを依頼したところ「いいですよ~」と快くお引き受けいただきました。
こちらの拙い進行にも関わらず、分かりやすく、時折ユーモアも交えながら、いろんなお話をたくさん聞かせていただきました。
インタビューの最後に、佐木さんから「今回、このような機会をいただき、私自身、PC-Talkerとのお付き合いも振り返れましたし、自分との関わりや影響も整理ができました。一緒に頑張っていきましょう!」という温かいお言葉をいただきました。
なんともありがたいお言葉に恐縮すると同時に、より一層頑張らねばと強く思いました。